SACD: Yo-Yo Ma, Ennio Morricone, Roma Sinfonietta Orchestra, Gilda Butta「Yo-Yo Ma Plays Ennio Morricone」
SACD: Yo-Yo Ma, Ennio Morricone, Roma Sinfonietta Orchestra, Gilda Butta「Yo-Yo Ma Plays Ennio Morricone」
Sony BMG Music Entertainment SICC 10033 2004年(録音は2003年)
SACD/CDハイブリッド、サラウンド5.1チャンネル/ステレオ2チャンネル
2018年12月にヤフオク!で購入。1600円
懐かしさ | ★★ |
楽曲 | ★★★★ |
演奏 | ★★★★ |
録音 | ★★★★★ |
購入満足度 | ★★★★ |
私が生まれ育った日本から初めて出国したのは1987年で、渡航先は米国だった。
その前の春、私はある吹奏楽団に(まだ)所属していて、そこの女性たちが卒業旅行に行く先輩たちに「成田へ見送りに行きましょうか」と大勢で話しているのを聞いていた。私が成田から出国する時は、だれ一人、見送りに行こうという人はいなかった。いや、実は母が言ったのだが、母の健康状態が思わしくないことは知っていたから、一人で空港へ向かった。米国の空港で迎えてくれる人がいるわけでもなく、大変に心細かったのを覚えている。初めての海外旅行では、いろいろと失敗もした。
目的地はThe University of Kansasで、1987年8月下旬から1988年5月上旬まで、学生寮でソフモア(学部2年生)扱いで過ごした。一応専攻はジャーナリズムであったが、最初の学期はアンダーグラデュエイト(学部レベル)のまともな授業は1つしか受講を許されず、それ以外は外国人向けの英語の授業だった。スピーキング、ライティング、リーディングの授業が続いた。グラマーだけは試験の結果がよく受講しなくて済んだ。
The Unversity of Kansasには芸術学部があり、著名な演奏家を招いてコンサートシリーズが催されていた。生まれて初めてシーズンチケットというものを買った。学生はかなり安価であったと思う。
そのコンサートシリーズに来た演奏家で記憶しているのは、Yo-Yo Ma、André Watts、Central Philharmonic of Chinaである。演奏したのがどこだったか忘れたがオペラも観た(「セビリアの理髪師」だった気がするが、よく覚えていない)。とにかく、Yo-Yo Maを観て聴いたというのは覚えている。それ以降も、どこかで聴いた、かもしれない。
そんなわけで、Yo-Yo MaのSACDがあると、つい買ってしまう。今回紹介するディスクはその中の1枚だ。
今回のディスクは、イタリアの偉大な作曲家であるエンニオ・モリコーネにレコード会社(ソニー・クラシカル)が、ヨー・ヨー・マの演奏で録音しないか、という話を持ちかけたものだ。モリコーネは「とても信じることができませんでした」と語っている。モリコーネは自分の曲を編曲して録音に臨んだ。
できあがった音は素晴らしい。スタジオ録音で、写真を見ると、ヨー・ヨー・マはヘッドホンをかけてブースで録音し、モリコーネもヘッドホンをかけて指揮をしている。オケの後ろの方にはシンセサイザー奏者がおり、「何の音なんだろう?」と思わせるものは、シンセサイザーであろうと見当が付く。
5.1チャンネルの方しか聴いていないが、とにかく、うねってからむ。空間が弦のうねりで満たされる。リスニングポイントから少し後ろの床に布団を敷いて寝転び天井を見上げると、目の前で音がからみあっている。録音の良さは、さすが欧州、と思う。サラウンドで音楽を聴く快感がある。
バイオリンとビオラとセロは、ビブラートについては最高の楽器だと思う。ビブラートが(左手の指の動きが)目で見えるので、奏者は初級のうちからビブラートのかけ方を学ぶし、複数で演奏する際はビブラートを合わせるということもする。
管楽器ではこうはいかない。最初にしつけられるのは、ビブラートなしで音をまっすぐ伸ばすことである。ビブラートは、どうしてもかかってしまうもの、であり、意図してかけるものではないとされる。もちろん、上級者はビブラートをうまくかけるのだが、唇の動きは金管ではまったく見えないし、木管でもそんなに見えるわけではないから、正直、秘儀のたぐいである。
あー、弦のビブラートって、うねりって素晴らしいなぁ、と思う。
また、弦楽器は、管楽器よりも弱音が出せるのがうらやましい。管楽器は振動が起きるしきい値がけっこう高いので、弦みたいな弱音は出ない。
私はシンセでストリングス音やパッド音を弾くのが好きなのだが、本物の弦のうねりは、やはり、夢のようである。このディスクの弦のうねりは逸品と言える。
エンニオ・モリコーネは著名な作曲家らしいが、私は今回のディスクに収録されている曲を聴いて、「あーこれか」ということはなかった。それでも、初めて聞いても、良い曲、良い音楽だと思う。元の映画を知らなくても楽しめる。
映画音楽は、映画を知っている人の感興を呼ぶ一方で、知らない人はぴんと来ないことが多いのだが、モリコーネの音楽は、音楽だけでも十分に語っている。
サラウンドの再生環境があるなら、ぜひ。
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