
SACD: T-SQUARE「Nine Stories」
Sony Music Artists Inc. 2011年 VRCL 10103
SACD、ステレオ2チャンネル
2020年12月にヤフオク!で購入、1100円
懐かしさ |
★★★ |
楽曲 |
★★★★ |
演奏 |
★★★★ |
録音 |
★★★★ |
購入満足度 |
★★★★★ |
T-SQUAREは新作を2チャンネルSACDでリリースし続けている稀有なバンドである。SACDにすることでCDより製造コストが上乗せされるのはわかるけれど、そこをけちってどうする、という気もする。少しでも良い音で楽しみたいというのは、オーディオを愛するすべての人に共通することではないだろうか。T-SQUAREのリリース姿勢は、こうあるべきものだと思う。
T-SQUAREにはCDのみ、というものがないため(多分)、中古を安心して購入できる。これまで10枚くらい買った。ただ、このブログで取り上げたのはそのうち3枚くらいである。聴いて、「よし書こう!」と思わせるインパクトが少なく、「いつか気が向いたら書くか」となってしまっているものが多い。
ところが、今回購入した「Nine Stories」は、再生して1曲目「A Little Big Life」が出てきたとたん、「いいじゃん!」となった。明るく華やか。スムーズでスピード感がある。重すぎず軽すぎず。きらめいているけどうるさくもない。
それをもたらしたのは、この曲の作曲者であるドラマーの坂東慧であると思う。
T-SQUAREの中核はギターの安藤まさひろとサックスの伊東たけしである。でも、この二人は、作曲者としては、長く続けてきたからこその壁に突き当たっていると思う。1980年代から90年代に多くの名曲を書き、それを演奏し続けることを余儀なくされる。昔の曲を忘れるわけにはいかない。その状態で曲を書けば、新しいチャレンジをしたいと思うのは自然だ。ただ、それが足かせになってしまっているのではないだろうか。
坂東慧とキーボードの河野啓三には足かせがない。昔のSQUAREの「らしさ」に対して、恥ずかしがる必要がない。坂東と河野の曲は、昔のSQUAREらしさを、より多く持っている。外から見た、SQUAREにこうあってほしい、という気持ちが、素直に反映されている。
音数が少なくシンプルで、でも細かいところはちゃんと工夫されていて、楽器好きをうならせる。作る側に過剰な気負いがなく、聴いてリラックスできる。
1曲目「A Little Big Life」はドラムの手数が少なく感じられる。まあ、自分で曲書けば、無理にフィル入れなくてもと思うもんね。それが、曲に落ち着きをもたらしている。私は基本的にはやたらと手数が多いドラマーが好きなんだけれど、それが今風でないことも理解している。ドラムが休む瞬間は、これがやりたかったんだろうなと思わせる。メロディは過剰にメロディアスでなく、インストゥルメンタルのおいしいところを持ってきている。メロディがサックスであるのも嬉しい。
2曲目「はやぶさ~The Great Journey:奇跡の帰還~」は、ゲーム音楽みたいである。これを「ださい」と片付けないところがさすがである。細かいところには、手練れの技が盛り込まれているのだから。
4曲目「ATLANTIS」は坂東の曲。ドラムのパターンがシンプルできれい。SQUAREはこれでいいんだよね。
SQUAREは、CASIOPEAと並ぶ日本の2大フュージョンバンドである。
私が大学時代に最初に誘われて入ったバンドはギター、キーボード、ベース、ドラムスというカシオペア編成で、でもコピーしたのは渡辺香津美だったりした。で、このカシオペア編成は、アマチュアにはすごく難しいのね。それで、吹奏楽団をやめたアルトサックス吹きを誘ってきてスクエア編成に変えた。
スクエア編成は、カシオペア編成に比べるとはるかに楽。絵を見た瞬間に、だれがメロディかわかるから。サックスが吹いていれば、それがメロディに決まっている。アマチュアバンドだと、PA担当者が適切にバランスを取ってくれることはあまり期待できないんだけれど、スクエア編成の場合は、音量バランスが多少狂っていても、サックスに目が行くから、そのメロディがちゃんと脳に届く。
その編成の違いは音楽に大きく影響して、SQUAREは「曲を聴かせる」バンドになった。一方のCASIOPEAは「演奏を聴かせる」バンドである。カシオペア編成はメロディの位置がはっきりしないので、ギターとキーボードの音量バランス、アレンジバランスはすごくシビアになる。それを見事にやってのけたのが野呂と向谷。で、すき間がけっこうあるからそこでドラムとベースが自由に動ける。
ということで、編成の違いから、SQUAREでは曲がとても重要なのだということを、今回のディスクが教えてくれた。
今回のディスクは、演奏も録音も良いと思う。SACDを長年作り続けてきたことが、やっと音に反映してきたのだろう。バランスがよく美しい。デジタル臭さも感じない。SACDでフュージョンを作るならこうだよね、という形ができてきた。
安藤と伊東は、なんかサイドメンっぽいんだけど、昔から聞いてきた者にあなた方の音はちゃんと届いている。いい味が出てる。
T-SQUARE、いいバンドだなぁ。
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